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意外性に満ちた東急系企業

東急ハンズ売却の背景にある東急と東急不動産HDの親子会社のつばぜり合い

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東急ハンズ渋谷 写真/OGW417Studio 

創業100周年を控え組織再編成

昨年12月22日、生活雑貨からDIYの機械工具、デザイン用品、ファンシー・バラエティグッズなどを扱い、プロから若い人までも惹きつけてきた東急ハンズがホームセンターのカインズに買収されることが明らかになり、話題になった。この報道の中で東急ハンズが鉄道の東急の子会社ではなく、東急不動産ホールディングスの子会社だったことを意外に思った人も多いようだ。

この東急ハンズのように東急系と称される企業・組織は、意外性に満ちている一面がある。

東急グループは、日本エアシステム(JAS/旧東亜国内航空、最終的に日本航空が経営統合)などグループ会社が一時は500社前後まで膨張。東京都市大学(旧武蔵工大)や亜細亜大学もその1つといえなくはない。「あれも東急系?」「これも東急系だった?」という企業や組織は少なくないのだ。

ちなみに東急ハンズは東急不動産だが、渋谷の象徴にもなっている「109」は電鉄系である。


渋谷109

その負の面として、1990年代末にはグループ全体で、有利子負債が3兆円を抱えたこともあった。

地方の空港の運営(コンセッション)に東急が乗り出しているのには、旧東急電鉄が東亜国内航空の筆頭株主時代の経験があったからとされる。そのため旧東亜国内航空の国内便が飛び立つところには、東急系のホテルやリゾートがある。そこでは東急と東急不動産のダブル東急がホテルなど不動産事業で、しのぎを削っている地域もある。

そんな東急は今年、創立100周年を迎える。その歴史をひもとくと、合併や分社化を繰り返してきた。今の「東急株式会社」という社名は、19年9月1日までは「東京急行株式会社」から変更されたもので、同年10月1日には鉄道事業が「東急鉄道株式会社」へと分割されている。


東急電鉄本社

この組織改編の主眼は、沿線の都市開発など儲かる事業に専念、そこを強化するためだ。非上場の鉄道事業会社の東急電鉄は、コロナ禍で沿線の通勤者がテレワークによる在宅勤務にシフトし、鉄道をあまり使わなくなる中にあっても、鉄道事業で一本立ちしてほしいという思いが強い。

というのも、不動産や流通など多角化を進めた結果、東急グループ全体の売上高は2.5兆円とされるが、現状の鉄道事業の売上高は連結ベースでは1割強にしか過ぎない。とはいえ、沿線人口は500万人を超え、鉄道事業そのものの売上はこのコロナ禍もあって減少しはているが、電鉄の潜在的な市場規模は大きく、沿線ビジネスにおいて、鉄路がなければ成り立たないからだ。

分離した不動産部門・東急不動産HD


東急本社

東急の都市開発における始祖は、渋沢栄一もかかわった田園都市株式会社というデベロッパーが源流。鉄道事業は、目黒蒲田鉄道は田園都市株式会社の鉄道部門としてから100年前に分離して発足した。

沿線の人口増加に浴した戦後は、百貨店業分離、東横百貨店(現:東急百貨店)を設立するなど会社の再編成を行い、高度成長を前の1953年に不動産部門の一部を独立させた東急不動産株式会社(現東急不動産ホールディングス)が誕生。東急の不動産事業が、電鉄本体とグループ会社で競合する契機となった。


東急不動産HD本社

分離された東急不動産は、バブル経済末期の1989年には、東急沿線外に飛び出して「チバリーヒルズ」(ワンハンドレッドヒルズ、千葉市緑区)で1億円前後で売り出したこともある。しかし、バブル崩壊後、場違いの超高級住宅街をつくったことで、後始末に追われた事業や子会社もあったが、それでも鉄道事業より不動産業が儲かる、大きくなる領域であり続け、利益や売上高で親を追い越し、逆転してしまった。

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いち早く損切りされた東急ハンズ

その東急不動産は13年にホールディングス化し、22年3月期には待望の売上高1兆円を突破する予想だ。その期末の3月に東急ハンズの株式を売却し、売却益は再生電力に振り向ける。このことは「異業種へのチャレンジの舞台は半世紀ぶりに変更される」と社内では見られている。

東急不動産HDの傘下にあった東急ハンズは1976年に創業。ライバルのロフトが旧セゾン系(西武の流通部門)から派生したのとは違い、東急百貨店とは関わりがない。

東京・都心を中心に約85店舗を展開し、商圏を広げてきた。しかし、ネット通販の逆風を受け、コロナ禍の外出自粛もあって業績が悪化し、21年3月期の業績は散々で、売上高は35%減の631億円、44億円の営業赤字に転落してしまった。

21年10月末に、主力店舗の1つだった池袋店を閉店。旗艦店の渋谷店以外の店舗は小型店も目立つ。強みのある専門的な売れ筋商品のロングテール戦略は、中小規模の店舗ではとりにくく、逆にネット通販の得意とするところである。このため東急ハンズの「豊富な品ぞろえ」の看板は揺らいだ。また、通販全盛時代の中、東急ハンズの強みであった店員の専門知識は「ネット検索に置き換えられた」ともいわれる。そこで自らもネット通販に力を入れ、巻き返しを試みたが難しかったようだ。


全盛期の賑わいは感じられない旗艦店の東急ハンズ渋谷

一方、東急不動産HDは、1年ほど前からハンズの売却を検討していた。大手証券会社を通じて数十社に東急ハンズの身売りについて話をしていた。最終的に郊外展開してきたホームセンター最大手のカインズがハンズの売却先に決定。その買収額は200億円超とされる。

電鉄事業のテコ入れか、再生エネルギー事業への注力か

東急不動産HDは、不動産以外のハンズなど事業の後退はすでに織り込んでおり、新規事業として再生可能エネルギー事業に力を入れる腹づもりだった。

西川弘典東急不動産HD社長は、22年1月4日の年頭所感で、ハンズ売却で得た資金は新たな経営ビジョンに沿って、「不動産業界トップクラスの実績とアドバンテージを活かしては再生可能エネルギー事業を中心に振り向ける」と話している。

再生エネルギー事業については、開発中を含めて70カ所、定格容量は1200メガワットを超え、すでに原発一基分を超える発電能力を確保中だという。ハンズ売却を発表した21年12月には、出資先の再生可能エネルギー事業領域の「リニューアブル・ジャパン」(十数%の株を保有し、第2位の大株主)の上場に伴い、その株式を追加取得した。再生エネルギー事業は今後の伸びに期待が持てる。とはいえ、ハンズのような安定性には疑問符がつき、先行きに不安要素がないわけではなく、西川社長の手腕が問われる。

東急と東急不動産HDの親子2社を比べると、鉄道事業と不動産事業の事業規模や収益が、前にいったように親子が逆転している。

22年3月期の業績予測では、東急不動産HDが増収増益で売上高が1兆円を突破(1兆100億円)、営業利益800億円。これに対して、東急は売上高が8684億円、営業利益は250億円にとどまる見込みだ。

親子とはいえ、業績と不動産事業ではすでに逆転されている東急と東急不動産HD。今やお互いが牽制し合う「ライバル」と見られている。一世を風靡したカンバン事業であっても、結果が出なければ売り飛ばされる――それが東急ハンズだったのかもしれない。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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